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東京地方裁判所 昭和36年(ワ)5297号 判決 1962年10月30日

原告(反訴被告) 田中敏行

右訴訟代理人弁護士 堀嘉一

被告(反訴原告) 東文江

右訴訟代理人弁護士 田口俊夫

右訴訟復代理人弁護士 高橋一成

主文

被告(反訴原告)は原告(反訴被告)に対し、別紙目録(一)(二)記載の土地、建物につき、東京法務局新宿出張所昭和三六年五月一五日受付第一〇五八五号をもつてなされた所有権移転仮登記の抹消登記手続をせよ。

原告(反訴被告)のその余の請求並に被告(反訴原告)の原告(反訴被告)に対する反訴請求を棄却する。

訴訟費用は本訴反訴を通じすべて被告(反訴原告)の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

別紙目録(一)、(二)、記載の土地、建物が原告の所有であつたこと、この土地、建物につき昭和三六年四月一一日付売買を原因とする東京地方裁判所昭和三六年(モ)第五六三八号仮登記仮処分命令にもとずく原告主張の所有権移転仮登記及び右建物につき、被告が原告を代位申請して原告主張の所有権保存登記がなされていることは当事者間に争いがない。

以下、右土地、建物について被告主張の売買契約の成否について判断するに、証人古賀博、中島柳近、東勝吉、田中ケイの各証言及び原告本人尋問の結果に検甲第一号証と乙第一号証を参照し考えると次のような事実が認められる。即ち昭和三六年四月上旬頃、被告人の夫の東勝吉がいわゆる不動産業を営んでいる訴外丸栄商事株式会社にアパートの買入の斡旋を委託したところ、右訴外会社の職員であつた古賀博と中島柳近は原告所有の右土地、建物が他の不動産取引業者から売り出されているとの情報を聞いて、原告方に行き、「同業の山本美津江という不動産業者から聞いて来たのですが、右土地、建物を売るのですか」と尋ね、「売つてもよいと思つている」との原告の意向をきいて「買手が現われたら案内するから宜敷しく」と頼んだ後、被告夫妻を右建物の見分に同道し、原告の妻田中ケイの案内で見分した上同月一一日訴外会社において古賀、中島両名は同会社の社長及び被告とその夫東勝吉被告の兄と称する訴外藤井勇二、被告が最初アパートの買入の媒介を委託した栄商事不動産の女子職員の列席したところで、右訴外会社もしくは古賀、中島両名が原告の右土地、建物の売却についての代理人であるように称して直接原告名義を用い、被告との間に、原告の所有する右土地、建物を被告に売渡す旨契約し、その旨の売買契約書即ち乙第一号証を作成し、その原告名下に中島柳近が印鑑屋から買つて来た印鑑(検甲第一号証)を押捺したことが認められるが、被告主張のような原告の右訴外会社に対する右土地、建物の売却の委託ないし、売却代理権授与の事実は、それが原告から訴外会社に対する直接の事実であると将又、原告の妻を介した間接の事実であるとを問わず、すべて証人古賀博、中島柳近の各証言以外にはこれを認めるにたる証拠がなく右の点に関する証人古賀博、中島柳近の各証言部分はたやすく信用できない。(なお古賀、中島両名に対する授権についても同様である。)却つて証人田中ケイ原告本人の供述によれば原告はこれより先訴外山本武雄に右土地建物の売却の斡旋を委託したことがあつた関係から、前記認定のように買人の案内に来た古賀、中島両名に買人の斡旋を受けることを黙諾したに過ぎず、その間訴外会社ないし右両名に売却の委託、もしくは売却代理権の授与をした事実はなかつたことが認められる。してみれば右売買契約は無効であるから右売買を原因とする前記所有権移転仮登記は無効であり、原告のこれが抹消請求は正当であるとともに、右売買の有効なことを前提とする反訴請求はその余の点を判断するまでもなくすべて理由のないことが明らかである。

次に前記所有権保存登記の抹消登記手続請求の当否につき判断する。右認定事実によれば右所有権保存登記は、代位権のない被告の代位申請に基くことに帰着し、この点において瑕疵あることは否定し得ないが、右登記はまさしく原告の所有権につきその保存登記をしているものであつて物権の変動と所在を公示することを目的とする登記制度の趣旨に背致するところはないのみならず、すでに保存登記がなされているのにこれを抹消し、改めて同一の保存登記を仕直さなければならぬような特別の事情も認められない以上たまたま代位申請者の代位資格に過誤があつたというだけの理由では右登記を無効としてこれを抹消すべきものとする実益はなく、ひつきよう原告には被告に対する右登記の抹消請求権はないものというべくこの点の請求は理由あるものと言うことができない。

以上の理由によつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条を適用し主文のとおり判決する

(裁判官 北村良一)

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